アルゴリズム型ステーブルコインとは

用語
アルゴリズム型ステーブルコイン

アルゴリズム型ステーブルコインとは

まず、ステーブルコインという言葉から説明します。ステーブルコインとは、価格が安定している暗号資産(仮想通貨)のことです。ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は、その価格が大きく変動することがあります。例えば、ビットコインの価格は短期間で何千ドルも上下することがあります。これは日常的な取引や貯蓄には不向きです。そこで、価格が安定しているステーブルコインが登場しました。


ステーブルコインの種類

ステーブルコインにはいくつかの種類があります。

1. 法定通貨担保型ステーブルコイン
これは、ドルやユーロなどの法定通貨を担保に発行されるステーブルコインです。例えば、1ドルのステーブルコインを発行するために、発行者は実際に1ドルを銀行に預けます。これにより、コインの価値は常に1ドルに保たれます。代表的なものにUSDT(テザー)やUSDC(USDコイン)があります。

USDT

2. 暗号資産担保型ステーブルコイン
これは、他の暗号資産を担保に発行されるステーブルコインです。例えば、イーサリアムを担保にして発行されるDAIがあります。これにより、法定通貨を使わずに暗号資産同士で安定した価値を持つコインを発行できます。

3. アルゴリズム型ステーブルコイン
これが今回の主題です。このタイプのステーブルコインは、法定通貨や暗号資産を担保にしません。その代わりに、アルゴリズムと経済モデルを使ってコインの価格を安定させます。


アルゴリズム型ステーブルコインの仕組み

アルゴリズム型ステーブルコイン

アルゴリズム型ステーブルコインは、価格を安定させるためにアルゴリズムを使用します。これは、一種の自動制御システムです。このシステムは、需要と供給のバランスをとるためにコインの供給量を調整します。

例えば、価格が上昇した場合、システムは新しいコインを発行して供給量を増やし、価格を下げます。逆に、価格が下落した場合、システムは市場からコインを買い戻して供給量を減らし、価格を上げます。このようにして、価格を目標値(例えば1ドル)に近づけるのです。

TerraUSD(UST)の事例

TerraUSD(UST)は、アルゴリズム型ステーブルコインの一例です。このコインは、Terraブロックチェーン上で運営されていました。USTの価格を1ドルに固定するために、システムはLUNAという別のコインを使っていました。

1. 新しいUSTの発行
USTの価格が1ドルを超えると、システムは新しいUSTを発行して供給量を増やします。これにより、価格は下がります。

2. USTの買い戻し
USTの価格が1ドルを下回ると、システムは市場からUSTを買い戻して供給量を減らします。これにより、価格は上がります。

このプロセスは、LUNAを使用して実行されます。具体的には、LUNAをUSTに変換することで、新しいUSTを発行します。逆に、USTをLUNAに変換することで、USTを市場から取り除きます。

USTの暴落とその影響

2022年5月、USTの価格が急落し、1ドルから大幅に下がりました。これは多くの人々に衝撃を与えました。この暴落の主な原因は、USTの供給量と需要のバランスが崩れたことです。

USTの価格が下がると、多くの人々がUSTを売却し、価格はさらに下がりました。システムはUSTを買い戻すためにLUNAを使用しましたが、LUNAの価格も急落しました。この連鎖反応により、USTとLUNAの両方の価格が暴落し、システムは崩壊しました。


アルゴリズム型ステーブルコインの課題

アルゴリズム型ステーブルコインは、理論上は非常に魅力的です。なぜなら、法定通貨や他の暗号資産を担保にする必要がなく、完全に自律的に運営できるからです。しかし、いくつかの課題も存在します。

1. 市場の信頼
アルゴリズム型ステーブルコインは、その仕組みが複雑であり、ユーザーが理解しにくいことがあります。市場の信頼を得ることが難しい場合、需要が低下し、価格の安定が難しくなります。

2. 極端な市場状況
急激な価格変動が発生した場合、システムが適切に対応できないことがあります。USTの暴落のように、供給量と需要のバランスが急激に崩れると、システムが安定性を維持できなくなります。

3. 規制の不確実性
アルゴリズム型ステーブルコインは、新しい技術であるため、各国の規制が追いついていないことがあります。規制当局がどのように対応するかによって、運営が制約される可能性があります。

ここまでのまとめ

アルゴリズム型ステーブルコインは、法定通貨や他の暗号資産を担保にすることなく、価格の安定を目指す革新的な暗号資産です。アルゴリズムを使用して供給量を調整し、価格を目標値に近づける仕組みを持っています。しかし、USTの事例に見られるように、極端な市場状況ではシステムが崩壊するリスクもあります。市場の信頼や規制の不確実性も課題となります。

アルゴリズム型ステーブルコインの未来は、これらの課題を克服できるかどうかにかかっています。技術の進化や市場の成熟に伴い、より安定したアルゴリズム型ステーブルコインが登場する可能性があります。現在はまだ実験的な段階にありますが、その可能性には大きな期待が寄せられています。


アルゴリズム型ステーブルコインの具体例

アルゴリズム型ステーブルコインにはいくつかの具体的な例があります。ここでは、代表的な三つのアルゴリズム型ステーブルコインを取り上げ、それぞれの歴史と特徴を詳しく説明します。

 1. TerraUSD (UST)

UST

TerraUSD (UST)は、Terraform Labsが開発したステーブルコインで、Terraブロックチェーン上で運営されていました。USTは、LUNAという別のコインを利用して価格の安定を保つアルゴリズム型ステーブルコインの一例です。

歴史と特徴
– 2018年・・・Terraform Labsが設立され、Terraプロジェクトが発表されました。プロジェクトの目的は、ブロックチェーン技術を利用してステーブルなデジタル通貨を提供することでした。
– 2020年9月・・・TerraUSD (UST) が正式にリリースされました。USTは、価格を1ドルに固定するために、LUNAを利用する仕組みを採用していました。
– 2021年から2022年・・・USTは急速に人気を集め、多くのDeFi(分散型金融)プラットフォームで使用されるようになりました。しかし、2022年5月にUSTの価格が急落し、1ドルのペグ(固定)を失いました。これにより、USTとLUNAの価値は急落し、プロジェクト全体に大きな打撃を与えました。

USTの価格維持メカニズム
USTは、LUNAを使った独自の供給調整メカニズムを持っていました。具体的には、USTの価格が1ドルを上回ると、新しいUSTが発行され、価格を下げることができました。逆に、USTの価格が1ドルを下回ると、USTが市場から買い戻され、価格が上昇するように設計されていました。

2. Ampleforth (AMPL)

AMP

Ampleforth (AMPL)** は、アルゴリズム型ステーブルコインの中でも特異な例で、供給量を変動させることで価格の安定を目指しています。

歴史と特徴
– 2019年6月・・・Ampleforthが正式にローンチされました。AMPLは、価格目標を1米ドルの購買力に基づいて設定し、供給量を調整することで価格の安定を図る仕組みを持っています。

供給調整メカニズム
AMPLは、毎日一定の時間にリベース(供給量の調整)が行われます。価格が1ドルを上回ると、全てのAMPLホルダーの持つコインの数量が増加し、価格が1ドルに近づきます。逆に、価格が1ドルを下回ると、持つコインの数量が減少し、価格が上昇するように設計されています。

使用事例
AMPLは、他のDeFiプロトコルやプラットフォームで使用されることが多く、その供給調整メカニズムにより市場の需要に応じて柔軟に対応できることが特徴です。

3. Frax (FRAX)

FRAX

Frax (FRAX)は、部分的に担保されたアルゴリズム型ステーブルコインで、担保とアルゴリズムを組み合わせて価格の安定を図っています。

歴史と特徴
– 2020年12月・・・Fraxプロトコルが正式にリリースされました。Fraxは、部分的な担保とアルゴリズムを組み合わせたハイブリッドモデルを採用しています。

担保とアルゴリズムの組み合わせ
Fraxは、価格を1ドルに固定するために、担保として他の暗号資産を保持しつつ、アルゴリズムによって供給量を調整します。この二重の仕組みにより、価格の安定性が強化されています。

Frax Shares (FXS)
Fraxプロトコルには、Frax Shares (FXS)というガバナンストークンが存在します。FXSホルダーはプロトコルの運営に参加し、供給調整メカニズムの決定に関与することができます。


アルゴリズム型ステーブルコインは、それぞれ独自の仕組みと歴史を持っています。TerraUSD (UST)は、LUNAを利用した供給調整メカニズムを持ち、短期間で急成長を遂げたものの、急落により課題を露呈しました。Ampleforth (AMPL)は、供給量の調整により価格の安定を目指す独自のアプローチを採用し、柔軟な市場対応を実現しています。Frax (FRAX)は、部分的な担保とアルゴリズムを組み合わせることで、より安定した価格を維持するハイブリッドモデルを提供しています。

これらの具体例を通じて、アルゴリズム型ステーブルコインの多様性とその仕組みの複雑さを理解することができます。それぞれのプロジェクトは独自の挑戦と成果を持っており、将来の暗号資産市場において重要な役割を果たす可能性があります。

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